性の無間地獄

今年の桜はいい。
今日も仕入れの買い物がてら、谷中霊園を通ったのだが、例年のようにあっという間に散りきる、って感じではなく、ほぼ無風の中、はらはらと文字通り舞い落ちている。このくらいの感じの中の花見、最高。

それはさておき、前回の(つづく)からはや一週間以上もたってしまった。ひとえに私の無精ゆえ。平にご容赦を。

さて前回は、男のマゾヒズムについて一くさりし、翻って女性は、というところで終わっているが、たまたま今日、mixiの中で、「分散恋愛」っていう本の話が出ていた。
内容をかいつまんで話してみると、かつて幾多の恋愛を経験し、その中で体験した事柄を踏まえて、この本を物した女性は、恋愛における相互依存を廃することで、自立した人生を歩むことを想定読者である妙齢の女性に説いている。
まあ、悩める女性にとってはひとつの指針となるのかもしれないけれど、内容はおおよそ陳腐、というか、一種の人生のhow to本の域を出ない。所詮いかに自分を傷つけないで、人生を楽しく生きるかという、エゴイズムを臆面もなくわめき散らしているだけだからだ。

もちろんすべての女性がこの類のエゴイストだと決め付けるわけではないけれど、女性性の本質〈ここでは多くを語れないが、そのひとつは”産む”性であるということ〉に分け行くと、こうした傾向が、さもありなんと理解できるような気もする。

さて、前出の2冊目の本「宣告」である。加賀乙彦の手による本書は、死刑囚監房とその日々、そして主人公である死刑囚楠本他家雄の姿を追って展開する長編である。文庫本上・中・下巻の上の後半から中の前半にかけては彼の生い立ちと、殺人を犯すまでの経緯が綴られている。ここで私が注目するのは二人の女性の存在だ。一人は他家雄の母。夭折した夫はパスツール研究所に勤めた経験もある学者で、彼女自身も大学の教授をしている。3人の息子はすべてT大(東大?)出身。しかし、であるがゆえに? 3人の兄弟と母の関係には壮絶なるものがあり、他家雄自身も彼女は憎悪の対象だった。
もう一人が恋人であった(ある?)美納。
ここで注目するのは美納。そもそも彼は友人の妹である菊乃に引かれ、彼女も満更ではなかったのだが、菊乃の友人であった美納の奔放さに次第に翻弄されていく。有体に言えば、美納とのセックス、彼女の身体の虜になっていくのである。あたかも時代は戦後闇市の時代。退廃と苛烈な生存競争が渦巻く時代背景はもちろん無視できないが、十代後半という性的に〈精神的にも〉最も不安定な年齢で、一級のエリートである主人公がこのような形で社会から阻害されていく様は、現代に置き換えても十分納得されるものである。
言い換えると、性と愛の狭間。
誤解を恐れずにいえば、男の性の本質はここにあるといってもよいと思う。
私自身自らの二十歳前後を振り返って、そこにあったのは無間地獄とも思しき性への撞着と、付随する愛、という構図だった。その無間地獄から解放されるには安定した性的関係の創出以外なかった。

「宣告」の主人公他家雄もその淵で、美納との結婚という自己救済の道を見つけるのだが、その条件としての就職に、肺結核という阻害要因が現れて失敗すると、坂を転げ落ちるように滅びの道に突き進んでしまう。

若い女にとって男はファッションのひとつ。
若い男にとって女は存在の要。
といったら言い過ぎか。
(つづく)
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by fuutaro58 | 2009-04-09 16:57