東京台東区は谷中から石垣島へ。


by fuutaro58
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緑陰の影で

 4月30日、5月1日と横浜に行ってきました。今年は桜木町のシネコンで映画を見た後長者町ワシントンホテルにチェックイン(ちなみに料金は二人で4900円)。その後勇躍街に繰り出したのですが、お目当ての居酒屋が見つからない。どうやら店が変わったらしいのですが、なくなったと思っていた店が実はあったりと、ちょっと不完全燃焼気味。二軒目に行った沖縄居酒屋で不愉快な思いをしたことを含め、接客業のありように思いをいたす1日となりました。

 で、本の話です。最近読み進めている作家は葉室麟と池井戸順。お二方とも知ったきっかけは新聞(?)の記事。その後NHK BSのブックレビューなどで紹介されたことで読み始めることになったのですが、紹介された「蜩ノ記」「下町ロケット」はいまだ読むに至っていません。図書館の順番待ちが長すぎてお目当ての本に届かないからです。で、必然的に以前の著作から、ということになるのですが、このままいくと、順番が来る前にその他の著作をすべて読み終えてしまいそう。まあ、それだけ面白いということではあります。
 葉室麟氏は1951年生まれというから僕と同年代。やはり今読み進めている佐々木譲氏が私と同い年なのだけれど、共通しているのは地方在住の作家であるという点。片や福岡、片や札幌という風土が作品の中に香り付けとなって生かされている。
 葉室氏の実質的なデビューは2005年尾形光琳の弟尾形乾山を主人公とした「乾山晩愁」。この短編集では江戸期の作家、絵描きを描いているが、平安時代から江戸期まで、その時代幅の広さが持ち味ともなっている。先日読了した「刀伊入寇」などは藤原氏全盛の道長(紀元千年前後)の時代に道長の甥であった藤原隆家が主人公。刀伊=鬼とは大陸の異民族女真族で契丹=遼に滅ぼされた渤海国の末裔。この刀伊が1019年に日本の対馬壱岐、北九州を襲い、これを迎え撃ったのが隆家である。この時代から約百年後女真の完顔阿骨打(かおるんあくだ)が遼、北宋を破り「金」国を打ち立てるのだが、そのあたりは北方謙三の「楊令伝」に描かれている。またこの時代の少し前、やはり北片謙三が藤原純友を描いた「絶海にあらず」をあわせ読むと時代の景色が薄闇の中から浮き出て見え、中国・朝鮮そして当時の日本を結ぶ東アジア古代史ファンの興を誘うこと間違いなし。

 時代小説が想像力の発露としてのロマンを奏でるとしたら、池井戸潤のそれは現代というカオスの中心に位置する銀行の世界をバックボーンに社会・経済・政治という世界に渦巻く小悪から巨悪を様々な手法でどぎつく彩色して見せてくれる。旧財閥系の自動車会社が引き起こした脱輪事故を追い、製造物責任を問う「空飛ぶタイヤ」、時の総理を始め、野党党首などが馬鹿息子、キンキラ娘と入れ替わってしまうというSFもどきのブラックコメディに仕立て上げた「民王(たみおう)」、1960年代と現代を行きつ戻りつしながら父と息子それぞれの愛と苦悩を描いた「BT63」など、時空を超えて人間の本質に迫ろうとする筆致は読むものの心を揺さぶり続けてやまない。バブル期に入行したという池井戸氏の世代的な感性の矛先は時として僕ら団塊の世代にも鋭く向けられるが、その憤懣を受け止めずば今という時代を生きる責任は果たせまい。

 とまあ、ブックレビューのような書き方をしてしまったが、「読まずに死ねるか」とおっしゃった亡き内藤陳さんの言葉が胸に染みまする。
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by fuutaro58 | 2012-05-02 13:02